物価上昇と中小企業の倒産増加—今後の対応策を考える
2024年度上半期(4~9月)の企業倒産件数が10年ぶりに5000件を超えました。この急増の背景には、物価上昇や人件費の高騰が中小企業の経営を圧迫していることが挙げられます。特に原材料費や燃料費のコスト増加を十分に販売価格へ転嫁できない企業が多く、倒産リスクが高まっています。経営者にとって、今後どのような対策が必要かを整理し、考えていきましょう。
1. 物価上昇が倒産増加を加速
2024年度上半期、倒産件数は前年同期比18%増加し、5095件に達しました。物価上昇が経営を圧迫し、価格転嫁に苦戦する中小企業が多い中、特に建設業、製造業、小売業で倒産が増加しています。帝国データバンクの調査では、「物価高倒産」は472件で過去最多を記録しており、企業が直面するコスト負担は深刻です。
このような厳しい経済環境において、企業が生き残るためには、まず自社のコスト構造を見直し、販売価格への転嫁がどれだけ可能かを冷静に分析する必要があります。価格競争力を維持しつつも、利益を確保するための精密な価格戦略が求められています。
2. コロナ後の支援策終了が経営に与える影響
中小企業にさらに大きな負担となっているのが、コロナ禍で実施された「ゼロゼロ融資」(実質無利子・無担保融資)の返済開始です。この融資を利用して一時的に資金繰りを確保していた多くの企業が、経済回復の過程で返済負担に直面し、結果的に倒産するケースが増えています。上半期だけでゼロゼロ融資を利用した企業の倒産は310件に上っており、返済の重圧が中小企業の資金繰りを厳しくしています。
この厳しい状況を踏まえ、早急に自社のキャッシュフロー計画を再検討し、金融機関との協議を通じた借り換えや返済条件の見直しが不可欠です。加えて、経営の効率化と不要なコストの削減による財務基盤の強化が、持続的な事業運営のカギとなります。
3. 業績の二極化と成功する企業の特徴
一方、物価上昇の中でも価格転嫁に成功し、業績を拡大させている企業も存在します。飲食業や宿泊業では、連続して値上げを行いつつも顧客離れが起きないケースも見られ、インバウンド需要の回復を追い風にさらに収益を伸ばしています。このような企業は、コスト増加を顧客に理解させ、価格戦略を的確に実施できている点が特徴です。
こうした市場環境の中、中小企業でも業績の二極化が進行しています。価格転嫁に成功している企業はしっかりとした財務計画を持ち、成長産業に転じる動きを見せています。一方で、コスト負担を価格に反映できない企業は競争力を失い、経営が行き詰まる傾向が強まっています。
4. 経営者が取るべき具体的な対応策
厳しい経営環境で中小企業が長期的に成功するためには、次のアプローチが必要です。まず、コスト構造を詳細に分析し、どの要素が利益率を圧迫しているかを明確に把握すること。その上で適切な価格設定を行い、顧客に対して価格改定の必要性をしっかり伝えることが不可欠です。
さらに、金融機関との連携を強化し、財務リスクの管理を徹底することが求められます。特にゼロゼロ融資を利用している企業は、返済条件の緩和やリスケジュールを含め、早急に財務再構築を図る必要があります。また、助成金や補助金の活用を検討し、外部リソースを最大限に活用することも重要な戦略の一つです。
まとめ
2024年度上半期の企業倒産件数は、物価上昇やコロナ後の支援策終了によって大幅に増加しましたが、一部の企業は価格転嫁に成功し業績を拡大しています。厳しい経営環境の中でも適切な価格戦略や財務管理を行うことで逆境を乗り越えることは可能です。経営者はコスト構造を見直し、無駄を削減する一方で、必要な価格改定をタイミングよく実施し、資金繰りの強化を図ることが持続的な成長を実現するための具体的な対応策となります。
出典:日本経済新聞 2024年10月9日